光が届かない海の底にいるかのような、そんな出来事だった。
3ヶ月前の今日、この時間、 僕は親友が入院している病院へと車を飛ばしていた。
自分はどんな時でも冷静だと思っていたけれど、そんなことは全くなかった。
ハンドルを握る手の感覚は鈍く、アクセルペダルを踏み潰すように走っていた。
病室に駆け込むと、友達は口を開けたままベッドで寝ていた。
僕の感情は一気に崩壊した。
前日の同じころ、ベッド脇に座る僕の手をたぐり寄せると、あいつは力一杯僕の手を握りしめた。
どこにあんな力がどこに残っていたのか...
振り絞った最後の力は、まだ僕の手の中に残されている。
重ねられた動かない手を解き、そっと握り締めた。
悴んだ僕の手を、息をしていない彼が温めてくれた。
それからのことは、あまり覚えていない。
47年の命だった。
僕らには釣りしか共通点がなかった。
大自然と向き合い、ひたすら竿を振り、夢中になって魚を追った。
あの日、天候が悪くて風も吹き荒れていた。
釣りは出来なくても、自然が繰り広げる絶景を車の中から一緒に眺めた。
あの日、 灼熱の太陽の陽射しの下、痛むほどに日焼けした。
波しぶきを浴びて火照った体を冷やし、車に積んである水を二人でかぶった。
夜は魚をさばき、最高な料理を食べさせてくれた。
あの日、僕らは居酒屋で反省会をした。
あいつは馬鹿だから、一口目のビールの為に余分な水を飲みたがらなかった。
グイグイとジョッキを傾けると、4分の3を一気に飲み干し決まって一言、
「うまい!」
毎回それを聞くのが楽しみだった。
あいつの口癖を思い出していた。
「まっ、いいってことよ」
「どおってことね〜よ」
僕はいつも、いいってこともないし、どおってこともあるわけで... と思っていたけれど、いなくなった今、全ては、まっ、いいってことで、どおってことでもないのかも知れないと思えるようになった。
その口癖は、生きて行く上でとても大事な言葉なのかも知れないって。
三ヶ月経った今も、携帯の着信音に反応する僕がいる。
一人で釣りに出かけては、釣れた魚を、どうだと言わんばかりのドヤ顏付きのメッセージを送りつけてくる。
まだどこかで釣りしてるんじゃないかって…
死は、生き残った人のものなんだと思った。
いつまでも相棒との話はできる。
竿を担いで旅した記憶は、僕の中から一生消えることはない。
”生きていることが奇跡”
狭い箱の中に入ったあいつが、最後に僕に教えてくれた。
書けてよかった。
やっと何かがスーッと染み込んで行くような感じがする。
おい相棒!大親友!
本当に最高に楽しかった!
ありがとな。










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