おい相棒!大親友!

最終更新: 6月13日

光が届かない海の底にいるかのような、そんな出来事だった。


3ヶ月前の今日、この時間、 僕は親友が入院している病院へと車を飛ばしていた。

自分はどんな時でも冷静だと思っていたけれど、そんなことは全くなかった。

ハンドルを握る手の感覚は鈍く、アクセルペダルを踏み潰すように走っていた。


病室に駆け込むと、友達は口を開けたままベッドで寝ていた。

僕の感情は一気に崩壊した。


前日の同じころ、ベッド脇に座る僕の手をたぐり寄せると、あいつは力一杯僕の手を握りしめた。

どこにあんな力がどこに残っていたのか...

振り絞った最後の力は、まだ僕の手の中に残されている。


重ねられた動かない手を解き、そっと握り締めた。

悴んだ僕の手を、息をしていない彼が温めてくれた。

それからのことは、あまり覚えていない。


47年の命だった。


僕らには釣りしか共通点がなかった。

大自然と向き合い、ひたすら竿を振り、夢中になって魚を追った。


あの日、天候が悪くて風も吹き荒れていた。

釣りは出来なくても、自然が繰り広げる絶景を車の中から一緒に眺めた。


あの日、 灼熱の太陽の陽射しの下、痛むほどに日焼けした。

波しぶきを浴びて火照った体を冷やし、車に積んである水を二人でかぶった。

夜は魚をさばき、最高な料理を食べさせてくれた。


あの日、僕らは居酒屋で反省会をした。

あいつは馬鹿だから、一口目のビールの為に余分な水を飲みたがらなかった。

グイグイとジョッキを傾けると、4分の3を一気に飲み干し決まって一言、


「うまい!」


毎回それを聞くのが楽しみだった。


あいつの口癖を思い出していた。


「まっ、いいってことよ」

「どおってことね〜よ」


僕はいつも、いいってこともないし、どおってこともあるわけで... と思っていたけれど、いなくなったいま、全ては、まっ、いいってことで、どおってことでもないのかも知れないと思えるようになっていた。

その口癖は、生きて行く上でとても大事な言葉なのかも知れないって。


三ヶ月経った今も、携帯の着信音に反応する僕がいる。

一人で釣りに出かけては、釣れた魚を、どうだと言わんばかりのドヤ顏付きでメッセージを送りつけてくる。

まだどこかで釣りしてるんじゃないかって…

死は、生き残った人のものなんだと思った。


いつまでも相棒との話はできる。

竿を担いで旅した記憶は、僕の中から一生消えることはない。


”生きていることが奇跡”


狭い箱の中に入ったあいつが、最後に僕に教えてくれた。


書けてよかった。

やっと何かがスーッと染み込んで行くような感じがする。


おい相棒!大親友!

本当に、最高に楽しかった!

ありがとな。












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